弁護士コラム
不貞相手への慰謝料請求ができなくなる?!
2019.03.01
不貞相手に慰謝料を請求できない?
「最高裁で、不貞相手への慰謝料請求ができないという判決が出た!」というネットニュースが話題になっていたのをご存知でしょうか。
事案の概要は、以下の通りです。
AさんとBさんは、以前婚姻関係にありました。しかし、Bさんは、Cさんという人と不貞行為をしてしまいました。そこで、Aさんは、離婚の原因がCさんにもあるとして、Cさんに対して離婚を余儀なくされたことについての慰謝料を請求しました。
つまり、AさんはCさんに対して、不貞行為そのものによって受けた精神的苦痛を原因とする慰謝料(「不貞慰謝料」といいます)請求とは別に、離婚を余儀なくされたことに対する精神的苦痛を原因とする慰謝料(「離婚慰謝料」といいます)請求を行ったのです。
AさんがCさんに「離婚慰謝料」を請求した理由
どうしてそのようなことをしたのかというと、「時効」が問題になったからです。
不貞慰謝料請求権の消滅時効は、不貞行為が発覚してから3年です。一方で、離婚慰謝料請求権の消滅時効は、離婚成立時から3年です。
本件は、不貞行為が発覚してから3年以上経過してはいたものの、離婚成立時から3年以上は経過していない事案でした。ですから、時効消滅していない、離婚慰謝料請求を行ったのだと考えます。
最高裁判所の判断の内容は?
これについて、最高裁は、2月19日、「離婚は夫婦間で決めるべき問題で、特段の事情がない限り不倫相手には請求できない」と判断しました。つまり、不貞相手に対する離婚慰謝料請求は、「特段の事情」がない限り認められないということです。
「特段の事情」について、裁判官は、「離婚慰謝料は、不倫相手が不当な干渉をした結果、やむを得ず離婚したなどの事情があるときだけ請求できる」旨判示しました。
たしかに、不貞行為が離婚の直接の原因にならないということは、起こりうることです。そのようなときにまで、不貞相手に離婚慰謝料の支払い義務を負わせるのは、公平とは言えません。上記のように考えると、裁判所の判断は、あながち間違っていないのではないでしょうか。
残る2つの疑問点
もっとも、疑問も残ります。
従来の裁判例や実務では、不貞行為後に離婚に至った場合の不貞慰謝料は、不貞行為後に離婚に至ってない場合の不貞慰謝料よりも、高額になる傾向にありました。
しかし、今回の最高裁の判例を基にすると、①不貞慰謝料と、②離婚慰謝料を合算した額が、不貞相手に発生する損害賠償債務になります。
②については、今後、【離婚に至った場合の不貞慰謝料の相場額―離婚に至らなかった場合の不貞慰謝料の相場額】と考えるのが、本判決と整合性がとれるように思われます。もちろん、不貞慰謝料の増額要素として、「離婚に至ったこと」がこれまでどおり考慮されるという考え方もできます。その場合、離婚慰謝料を不貞相手に負わせることができるのでしょうか。その点についてはまだ明らかにされていません。
また、従前、配偶者に対する慰謝料請求と、不貞相手に対する慰謝料請求を行った場合、両者は、連帯債務になると考えられていました。
このような場合、不貞慰謝料と離婚慰謝料の区別を明確にしている裁判例は少ないと感じていますが、本判決が出た以上、今後は明確に両者を区別するのか、そして負担割合をどうするのか、議論の余地があります。
どちらにしろ、時効消滅する前に、不貞相手に対して不貞慰謝料を請求しておくことが得策です。不倫に気づいた、又は昔不倫されていたけれど、慰謝料請求はしていなかった、そのような方は、是非当事務所までご相談ください。