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事業譲渡契約について

事業譲渡契約について

1. 事業譲渡契約について

事業譲渡契約について

企業の買収方法は、株式を取得して支配権を獲得する方法と、事業を直接承継する方法とに大別できます。
事業譲渡は後者に属する取引行為で、事業を構成する個々の権利義務を移転しなければならないという特徴があります。買収する側は、特定された資産・負債を承継します。対抗要件の具備等の承継のための手続も、個別に行わなければなりません。そのため、事務処理の負担が重くなりがちですが、偶発債務を承継するリスクを避けることができるという利点もあります。

2. 一般的な事業譲渡契約の構成

2-1. 前文

売主と買主を定めます。株式譲渡の場合と異なり、買収対象となる会社(このような会社のことを「対象会社」と呼称します。以下では「対象会社」といいます。)そのものが売主となります。

2-2. 事業譲渡の概要

  • 売買対象となる資産・負債等の特定

    承継する資産・負債を特定することは極めて重要です。項目分けを行って、各項目ごとに承継の対象を個別に列挙する方式がとられることが通常ですが、別紙という形で契約書本体と分けられることもあります。以下、注意すべき点を解説します。

    • 偶発債務の取扱い
      偶発債務とは、現実にはまだ発生していないものの、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務をいいます。偶発債務は、その負債額を正確に予想できないという特徴があります。事業譲渡を行う際は、偶発債務の承継に関して明確にすることが重要です
    • 契約不適合責任への対応
      売主が契約不適合責任を負うか否かは契約書に明記をすべきです。なお、契約不適合責任は、後述する表明保証の規定でカバーすることもあります。
    • 従業員の取扱い
      事業譲渡によって従業員を承継する場合、当該従業員は、対象会社を退職したうえで、買主に新たに雇用されるという形になります。その関係で、退職金をどのように処理するか、新たな雇用条件をどのように定めるかという点を明確にする必要があります。
  • 譲渡対価

    譲渡対価の総額をいくらにするかは最も重要な事項です。契約締結日から実行日まで時間がある場合、事業の資産価値に変動が生じる可能性があるため、譲渡対価を事後的に調整できるようにしておくことも一考されます。

2-3. 事業譲渡の実行

契約書で定める事項は次のとおりです。

  • 事業譲渡の実行日
  • 事業譲渡の実行日に契約当事者が行うべき事項

    [売主]

    資産・負債等を承継するための手続を行います。例えば、不動産を承継するのであれば、所有権移転登記の手続が必要です。承継する資産・負債等の数が多くなるほど、手続費用を要します。そのため誰が費用を負担するかも定めなければなりません。

    [買主]

    譲渡対価を支払うことはもちろんですが、売主が承継手続を行うために必要な協力を行う必要があります。

2-4. 表明保証

表明保証は英米の契約実務で用いられていた契約条項が日本でも取り入れられたものです。
ある時点における対象企業の財務等に関する事項が真実かつ正確であることを表明し、それを保証することをいいます。
表明保証される事項は次のとおりです。

  • 事業に関する計算書類の正確性
  • 事業に重大な後発事象が発生していないこと
  • 譲渡する対象の資産等に問題がないこと
  • 法令に違反していないこと
  • 承継する従業員には未払残業代等がないこと
  • 事業に関して訴訟等が係属していないこと
  • 租税公課を未納していないこと
  • 反社会的勢力と関係していないこと
  • 買主に対して重要な情報をすべて開示したこと

仮に契約書を作成する時点で、上記内容に反することが判明しているときは、表明保証に反することがないように、表明保証の例外であることを明らかにします。

2-5. 売主の誓約事項

契約締結日から実行日まで日数のあることは珍しくありません。その期間中に、買主にとって不都合な事象が生じないよう売主に義務を課すことがされます。具体的には以下のとおりです。

  • 売主は善管注意義務に従って経営を行うこと
  • 事業に重大な影響を与えるおそれのある行為をするに際しては、売主から事前に同意を得るべきこと
  • 事業を運営するにあたり許認可等を得る必要があるときは必要な協力をすること(事業を譲渡されたとしても、許認可は自動的に引き継がれません。買主は改めて許認可を得る必要があります。)

2-6. 買主の誓約事項

会社が借入を行っている場合、会社の代表取締役による連帯保証がされているのが通常です。事業譲渡がされると、対象会社の代表取締役はその地位を退くため、連帯保証も解消しなければなりません。そこで、買主に対して、連帯保証を解消し、その代替措置を講じることを定めることが通常です。

2-7. 競業禁止

事業を譲渡したにもかかわらず、売主が同種の事業を新規に立ち上げたとすると、買主にとって不利益となるおそれがあります。そのような事態を防止するために、一定期間は競業となる行為を行うことを禁止する旨が定められます。

2-8. 秘密保持

事業譲渡に関する事項が第三者に伝播することを防ぐために秘密保持条項が定められます。

2-9. 前提条件

事業譲渡の実行にあたり、前提として、以下の点がクリアされていることを条件とすることが一般的です。

[売主が満たすべき前提条件]

事業譲渡の前提となる条件が履践されていなければ事業譲渡を実行する義務を負わない旨を規定します。 売主、買主双方について、

  • 表明保証が正確であること
  • 誓約事項が履行されていること

を前提条件とするのが一般的です

2-10. 解除

通常、次のとおりの解除事由が定められます。

  • 重大な表明保証違反
  • 重大な契約違反
  • 破産等の倒産手続の開始

なお、実行日以降に問題が発生した場合は損害賠償により対処することになります。

2-11. 損害賠償

表明保証等の違反や事情譲渡契約の違反があったときは、損害賠償の対象となります。
売主・買主の間で交渉が先鋭化しやすい事項としては以下のようなものがあります。

  • 損害賠償を請求できる期間
  • 損害賠償額の上限
  • 1件あたりの損害賠償額の下限(例えば、一定金額以下の請求は損害賠償の対象から除外する等と定められます。)

2-12. その他

裁判管轄等の一般的な条項が規定されます。

3. まとめ

事業譲渡契約は、記載内容や構成が複雑になる傾向にあるため、専門家によるサポートの必要性の高い契約類型といえます。弊所では、事業譲渡に関する事案も豊富に取り扱っておりますので、事業譲渡をご検討の際は一度ご相談ください。

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