不動産賃貸借契約について
1. 不動産賃貸借契約について
人が社会生活を営むうえで不動産との関係は切り離すことはできません。生活の根拠となる住居を借りる。仕事をする場であるオフィスを借りる。このような場面は社会に溢れています。このような場面で結ばれるのが不動産賃貸借契約です。
その特徴は、当事者間で契約関係が一定期間継続することにあり、契約書の内容を考えるうえでも、この点に留意しなければなりません。また、不動産賃貸借を終了させることが容易に認められてしまうと、借主にとっては大きな不利益となるため、借主保護のため契約の終了は制限されています。
さらに、不動産賃貸借は民法だけでなく借地借家法の規制もありますので、その点にも留意する必要があります。
2. 一般的な不動産賃貸借契約の構成
2-1. 前文
貸主と借主を定めます。また、賃貸借の対象となる不動産を明記します。
2-2. 賃貸借契約の概要
一般的には次のような内容を定めます。
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賃貸借の対象
不動産登記の記載事項にて対象を特定します。アパート等の場合は部屋番号等まで記載されます。
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賃料
賃料の支払いは最も重要な借主の義務です。契約書にて、金額、支払時期、支払方法を明らかにします。事情変更が生じた場合に備えて、賃料の増減に関する規定も定められます。
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契約期間
契約期間を明記することも重要です。契約期間については、借地借家法による規制も存在しますので、当事者間で事後的に紛争となることを防止するためにも、契約書を借地借家法の規制を反映させたものとし、契約関係を明確にしておくことが望ましいでしょう。
2-3. 敷金に関する定め
近年では、敷金礼金を不要とする物件も増えてきていますが、まだまだ敷金を必要とする物件が一般的です。敷金は賃料等の賃貸借契約上の債務を担保する機能を有します。敷金が差し入れられる場合は、契約書でその金額も明記します。
2-4. 賃貸人の義務
2-4-1. 修繕義務
賃貸人が負う最も重要な義務は、目的物を使用収益させることです。目的物が汚損・破損していると、使用収益に支障が生じるため、賃貸人には、使用収益に必要な修繕をする義務が課せられます。この修繕義務については、修繕の範囲や費用負担について紛争になるケースが散見されますので、契約書で明記することで紛争を予防することができます。
なお、今般の民法改正では、一定の場合には賃借人が自ら修繕をすることが認められました。この場合、修繕に要した費用は賃借人から賃貸人に事後的に請求することになります。
2-4-2. 費用償還義務
必要費とは、物件を保存・管理するために支出する費用のことです。例えば、雨漏りの修繕費用がこれにあたります。このような必要費を賃借人が負担した場合、賃貸人に対して直ちに費用を請求できます。
また、物件の価値を増加させる費用を有益費といいます。賃借人が支出した有益費は、契約終了時に請求できるとされています。
仮に賃貸人がこれらの請求を遮断したい場合、その旨を契約書で明記しなければなりません。
2-5. 賃借人の義務
2-5-1. 原状回復義務
賃借人は、賃貸借契約を終了して退去する際に、賃貸物件を原状に回復する義務を負っています。原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されます。
原状回復義務の範囲は、不動産賃貸借に関して発生するトラブルの中で最も頻度の高いものの一つです。
原状回復費用はすべて賃借人が負担しなくてはならないわけではありません。経年劣化や通常損耗については賃貸人の負担となります。これを修正する場合、特約として契約書で明記しなければなりません。
原状回復の費用負担については、国交省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で一般的基準を示していますので参考にしてください。
2-6. その他の条項
2-6-1. 使用目的
使用目的を限定することもあります。例えば、居住用のアパートであれば「居住」といった記載がされます。使用目的に違反した場合はこれを解除事由とすることがあります。
2-6-2. 禁止事項
契約期間中に賃借人に禁止する事項を明記しておき、これに違反した場合は解除事由とします。禁止事項は具体的かつ明確にしておかなければなりません。
2-6-3. 解約
契約期間を定めていた場合、途中解約に関する条項を記載しなければなりません。もっとも、契約の中途解約は借主にとって大きな不利益となり得ます。そのため、解約に関しては借地借家法で制限されておりますのでご注意ください。
2-6-4. 解除
家賃が1ヵ月滞納されていればそれは契約違反に他なりません。しかし、契約違反があるからといって直ちに解除できるわけではなりません。判例は、借主保護の観点から、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといえるような場合に限り、解除を認めています。
家賃の場合、3ヵ月程度の未納があれば解除ができるといわれています。
3. まとめ
不動産賃貸借契約についてはひな形を流用している例が散見されます。しかし、不動産賃貸借契約は民法だけでなく借地借家違法にも目を配る必要があるため、安易にひな形を利用することはお勧めできません。契約書を作成する際は、是非一度当事務所にご相談ください。