“金銭消費貸借契約について
1. 金銭消費貸借契約について
金銭消費貸借契約は、金銭の貸し借りに関する契約であり、会社間取引だけでなく、個人間においても日常的に取り交わされる契約です。
しばしば「借用書をとっているので貸金を回収してほしい」等のご相談をいただきますが、いざ借用書を拝見すると、借用書として有効でなかったり、重要な要素が抜けていたりするケースが散見されます。
そこで、以下では金銭消費貸借契約書について解説します。
2. 一般的な金銭消費貸借契約の構成
2-1. 金銭を貸し付けたことを示す条項
金銭消費貸借契約は要物契約といって、金銭の交付によって契約が有効に成立するのが原則です。従って、貸主が金銭を「貸し付け」、借主がこれを「受領した」との規定を設けることになります。
なお、民法の改正により、前述の要物契約性が緩和されており、書面で契約を取り交わす場合には、その場で現実に金銭を交付しなくとも、将来的に金銭を引き渡すことを内容とする契約も有効に成立することが明文化されました。
2-2. 返済期限、返済方法を定める条項
貸主が貸し付けた金員を借主がいつ返済するのか、すなわち返済期限を定める条項が必要となります。
返済期限を定めることにより、借主が返還義務を負うものであることがより明らかになるとともに、返済期限を徒過した場合には、返済期限の翌日が遅延損害金の発生する起算日ともなりますので、非常に重要な規定となります。
また、返済方法を定める規定が必要です。例えば、銀行送金によって行うのか、あるいは、借主が貸主のもとに持参して支払うのかといった問題です。この点について、何ら定めをしなかった場合には、民法の規定に従い、借主が貸主の現住所に持参する方法により支払うこととなります。
なお、返済方法を銀行送金にする場合には、振込手数料を貸主・借主いずれの負担にするのかを明示することが無用のトラブル防止の上で重要です。通常は借主の負担とするとの約定をおきます。
2-3. 利息・遅延損害金を定める条項
利息制限法に触れない範囲で、当事者間で任意に利率を設定することができます。特に定めがない場合には法定利率(年5分または年6分)に従うこととなります。このことは遅延損害金にも同様にあてはまります。
2-4. 期限の利益が喪失する旨の条項
返済期限が定められている場合、その期限までは借主はその返済が猶予されることとなります。このように返済を猶予されることによって得られる借主の利益のことを「期限の利益」といいます。
裏を返せば、返済期限を定めた場合、返済期限が到来するまでの間は、貸主は直ちに貸金を返済するよう求めることができません。そこで用いられるのが期限の利益を喪失させる旨の条項です。例えば、「借主が返済を一度でも怠った場合には期限の利益を喪失し、貸主は一括して残金を請求できる」といった条項です。
弁護士等の専門家によるチェックを経ていない借用書において最もよく見られる失敗例の1つが、この期限の利益喪失条項を欠いているというものです。
期限の利益喪失条項が欠けていると、返済期限が既に到来している貸金部分しか、即時の返還を求めることができません。しかしながら、貸金の返済の場合、ひとたびその返済が滞りはじめると期限が未到来についての返済も含め、期限内に返済されるのか疑義が生じるのが通常です。
そのため、貸主としては、期限の利益を喪失させる条項をきちんと定め、一定の遅滞が発生した場合には直ちに全額請求できるような契約内容にしておくことが、一回的に回収を図ることを可能にするためにも重要です。
2-5. 担保を設定する
金銭消費貸借契約における貸金が高額に及ぶ場合には、より実効的な回収を可能にするため、借主に対し、担保の提供を求めることも考えられます。担保には大きく分けて人的担保と物的担保とがあります。
2-5-1. 人的担保
連帯保証人が典型例です。簡単に言えば、連帯保証人とは、主債務者(借主)と同種の債務を負う保証人のことをいいます。借主よりも資力のある者が連帯保証人となればより実効的といえます。
連帯保証人を担保とする場合には、必ず連帯保証人から直接、署名捺印をもらうことが重要です。
2-5-2. 物的担保
抵当権が典型例です。抵当権は不動産の価値に着目して、これを担保にするのが代表的なもので、金融機関からの借入や企業間での取引において頻繁に用いられるものです。
しかしながら、貸金の額が非常に多い場合には、たとえ個人間でなされる日常の金銭消費貸借契約であっても抵当権を設定することは人的担保以上に実効性があるといえます。
なお、抵当権に代表される物的担保は、必ずしも借主本人が所有する財産に限らず、第三者の財産を目的とすることも可能です。もっとも、その場合には、当然のことながら、当該第三者との間で抵当権設定契約を締結する必要があります。
3. 最後に
金銭消費貸借契約は、日常的に用いられ、馴染みのある契約類型ではありますが、金銭の貸し借りによるトラブルが非常に多いのもまた現状です。安易に口頭で金銭を貸し付けるのではなく、しっかりとした契約書を取り交わすことが肝要です。また、貸付額が大きくなればなるほど、根深いトラブルにも発展します。
金銭の貸し借りを事前にされる場合には、会社間、個人間を問わず、当事務所までご相談ください。
2. どの債務を担保するものなのか(被担保債権)を明確にする条項
動産譲渡担保契約は担保の設定を目的とする契約です。どのような担保設定契約にも共通することですが、その担保がどの債権を担保するものなのか(被担保債権)を明示することが重要です。
例えば、「本件譲渡担保は、甲乙間の●年●月●日付金銭消費貸借契約に基づく貸金返還債務を担保する」などと明示します。被担保債権の特定は、契約名だけでなく、その契約日、その契約の概要等を明示することにより、他の債権と識別できる程度に行うことが重要です。
3. 譲渡担保であることを明確にする条項
(1)譲渡担保は所有権を移転する契約でありますが、あくまで担保目的で所有権を移転するものです。抵当権等と異なり、法律上の定めのある契約類型でありませんので、そのことを明確にすることが必要です。
- 例えば
-
- 1 乙は、甲に対し、本件債務の担保とするために本件動産を譲渡担保として差し入れる。
- 2 乙は、甲に対し、前項に基づき、本日、本件動産の所有権を譲渡し、甲はこれを譲り受けた。
- という条項の設定が考えられます。
(2)また、動産の所有権はその目的物の引渡しがなければ、第三者に対して、自らが所有権者であることを主張できません。
すなわち、その目的物の占有を移すことによって確定的に所有権を主張することが可能となります。そこで、債権者(譲渡担保権者)は債務者から担保目的物の引渡しを受け、確定的に所有権を主張することができるようにしなければなりません。
もっとも、譲渡担保は、担保設定しても債務者による使用を継続させることに大きな特徴があるにもかかわらず、現実に担保目的物を債権者に引渡しては、譲渡担保の目的を達成できません。そこで法律上の引渡しとして認められる方法に「占有改定」というものがあります。
これは、客観的には目的物の物理的移動を伴わないものの、債務者(譲渡人)が以後債権者(譲受人)のために占有するものとする旨を合意すれば、引渡しがあったものと認められるものです。譲渡担保契約においてはこの方法が有用となります。
具体的には、契約書において、「債務者は、債権者に対し、本日、本件動産を占有改定の方法により引き渡し、債務者は以後債権者のために債権者に代わって本件動産を占有する」という規定を置くことが考えられます。
なお、占有改定は債権者と債務者との間で約定されたとしても、客観的な占有状態に変化がないことから、これが第三者にも明らかとなるようラベルを貼ったり札を立てたりすることによる表示を施すことが必要です。これにより、債務者がその目的物を使用継続していても、その所有権は債権者にあることが明確となります。
具体的には、「債務者は、本件動産が債権者の所有にかかる物件であることを第三者に対して明示するため、本件動産にラベルを貼付する等適切な公示をしなければならない」という規定が考えられます。
4. 譲渡担保の目的物の所有権が債務者に回復される条件・方法を定める条項
(1)譲渡担保は担保目的で目的物の所有権を移転させる契約です。
裏を返せば、被担保債権が全て弁済された場合、すなわち担保の目的が達せられた場合には、債務者にその所有権が回復されることを予定した契約です。そこで、「債務者が本件債務を遅滞なく弁済したときは、本件動産の所有権はその弁済が完了したのと同時に債務者に移転する」といった規定を盛り込みます。
(2)また、占有改定によって債権者のもとにある占有を債務者に変更する必要があります。
前記のとおり、占有改定は客観的には目的物の物理的移動を伴わないものの、債務者が債権者に代わって占有するものですから、その状態を解く必要があります。
そこで、契約書には「本件債務の弁済が完了したときは、所有権移転の時をもって、本件動産の占有も債権者から債務者に移転したものとみなす。」との規定を置くことが考えられます。
5. 担保目的物の処分についての条項
譲渡担保契約も担保の一種である以上、債務者が債務を履行しなかった場合には、債権者が担保目的物を処分することにより、債権の回収を図ることになります。
そこで、契約書には、債務者に債務不履行があれば、債権者は本件動産を売却処分することができるという規定をおくか(これを「処分清算型」といいます)、債権者が本件動産の所有権を確定的に取得するというという規定をおきます(これを「帰属清算型」といいます)。
また、債権者が処分清算型か帰属清算型のいずれかを選択できるという規定も可能です。債権者はこれらの方法により譲渡担保権を実行し、債権の回収を図ることになります。
6. 最後に
譲渡担保契約は実務上の必要性から認められるようになった担保権の1つですので、その契約内容も他の担保権よりも当事者間で柔軟に定めることができます。。
もっとも、かなり技術的な担保権であるが故に、その契約内容の確認や契約書の作成におきましては、専門家たる弁護士にご相談いただくことが最も安全です。