休業手当・賃金・休業補償の違いを弁護士が解説します
休業手当とは、比較的古くから整理された手当ではありますが、いかなる場合に支給されるのか、他の給付や制度との違いは、意外に知らない人も多いのではないでしょうか。
例えば、従業員が仕事をしていないのは取引先が原因だから、と休業手当の支払がされていない場合は、本当にありませんでしょうか。あるいは、就業規則の確認もせず、規定休業手当を払ったのだから、これ以上の支払は不要だと、安易に判断されたりしてはいませんか。
この記事をご覧いただくことで、休業手当の基本的な考え方から、いかなる場合に休業手当を払うべきなのか、休業補償などの他の制度との違い、関係する就業規則の条項などについても学んでいただければと思います。
1. 休業について
前提として、休業とは何かについて、簡単に説明します。
休業とは、労働契約上労働義務のある時間において労働をなしえなくなることと一般的に言われています。労働義務があることが前提ですので、労働義務から解放されている休日とは区別されます。
2. 休業手当の概要
2-1. 休業手当の定義
法令上、休業手当とは、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない、と規定されています。
係る規定は、強行法規とされていますので、これに反する合意は無効とされますので、ご注意ください。
2-2. 休業手当が支払われない場合
休業手当は、休業において、民法上の労働者保護が不十分ということで、休業中の労働者の最低生活の保障をはかるということを目的としていますので、ポイントは、「使用者の責に帰すべき事由」かどうか、という点にあります。「使用者の責に帰すべき事由」に該当する場合、使用者は、休業手当を支払わなければなりません。
どのような場合に、「使用者の責に帰すべき事由」といえるのかについて、以下の例が参考になります。
【該当するとされる例】
- 資金難、材料不足等による経営障害の場合(昭和23年6月11日基収1998号)
- 一部の労働者のストライキを理由に、残りの労働者の就業を拒否した場合(昭和24年12月2日基収3281号)
【該当しないとされる例】
- 計画停電による場合(平成23年3月15日基監発0315第1号)
- 天変地異等の不可抗力の場合
上記の例からもお分かりかと思いますが、労働者の賃金生活の保障という観点から、一般的には、幅広く認められる傾向にあります。「使用者の責に帰すべき事由」という文言に惑わされ、安易に支払を拒絶するのではなく、まずは法律の専門家にご相談されるべきかと思います。
3. 賃金の支払について
誤解されやすいのですが、休業手当の支払をしたからといって、直ちに賃金の支払をする必要がなくなる、というわけではありません。
休業手当は平均賃金の6割ですので、その差額については、民法536条2項の規定に該当する場合、すなわち、この場合ですと、労働者の帰責性がない場合に、賃金の支払を受ける権利を失わないため、別途、賃金の支払を請求され得ます。
ただし、民法536条2項の規定は、任意規定といいまして、合意により排除することが可能です。
就業規則等によって、民法536条2項を排除する会社もありますが、その排除の規定の仕方次第では、これが認められないことがあります。実際に、裁判例でも明確に排除されていないと判断され、賃金の支払義務が課された例があります。そして、そうした裁判例を受けて、労働者が請求をする事件も増えています。就業規則等の見直しは必須かと思います。
4. 休業補償との違い
一見すると、同じように思われる制度として、休業補償という制度があるので、参考までに、その違いを簡単に説明しておきます。
休業補償とは、簡単に言いますと、業務上の負傷又は疾病による療養のために休業している場合に支給されるもので、休業が通算して4日目からは労災保険により、「休業補償給付」として支給されます。なお、休業開始から3日間分は、会社が休業補償を支払わなければなりません。
一般的には、休業手当が想定しているのは、不景気や生産調整といった会社都合の休業の場合ですので、業務災害を想定している休業補償とは別の規定となります。従いまして、二重支給ということは、基本的にはあまり考えられないということになります。
また、特に注意すべき点としましては、休業手当は、あくまで賃金として扱われるのに対し、休業補償は、賃金ではない、という点です。従いまして、休業補償と違って、休業手当の場合、雇用保険、社会保険などの労働保険料がかかる、という点は、注意が必要かと思います。