1. 有期雇用契約の無期労働契約への転換制度とはなにか?
1. 有期雇用契約の無期労働契約への転換制度とはなにか?
1.1. 有期雇用契約
まず、有期雇用契約の無期転換制度について説明する前に、前提となる有期雇用契約について説明します。
雇用契約には、雇用期間を無期とする場合(無期雇用契約)と一定の期間とする場合(有期雇用契約)とがあります。
有期雇用契約は、一般的には、日雇い労働者、アルバイト、パートタイム従業員や契約社員などと呼ばれたりすることがありますが、いずれも雇用契約期間が定められている場合には、法的には有期雇用契約に分類されることとなります。
有期雇用契約の特徴は、予め合意された雇用期間満了時に雇用契約が自働的に終了するところにあります。また、期間満了後も継続雇用をしたい労働者との関係では、有期雇用契約を更新することも可能です。
使用者側からすると、有期雇用契約は、労働契約を終了させるために解雇手続きを踏む必要ないだけでなく、雇用の終了時期も明確に設定することができる点にメリットがあるため、ある一定の期間のみ発生する業務に従事する人員が必要になった際等、労働者の臨時的需要を満たすために利用されます。また、短期で雇用契約を終了させること、及び、必要に応じて期間満了後の契約更新も可能なため、平時における雇用調整にも利用されています。
他方で、労働者からしても、有期雇用契約は、合意された一定の期間中は雇用が保障される機能があるという点でメリットがあると指摘されています。
1.2. 有期雇用契約の濫用的利用
このように柔軟性が高く使い勝手の良い有期雇用契約ですが、利用方法によっては問題が生じ得ます。例えば、使用者が、雇用期間を短期とする労働者を多数雇い、必要な期間当該雇用契約を繰り返し更新し続ける場合が挙げられますが、これでは、労働者の立場が不安定になります。
1.3. 有期雇用契約の濫用規制としての無期労働契約への転換制度
有期雇用契約の有するこのような問題を規制するために導入されたのが有期雇用契約を無期労働契約へと転換させる制度です。
この制度は、有期雇用契約の更新が繰り返されその通算期間が5年を超えた場合に、労働者が申し込みをすることにより、有期雇用契約が無期雇用契約に転換されるものです。無期雇用契約への転換は使用者の意思とは無関係になされるもので、労働者が希望する以上、使用者が無期雇用契約への転換に反対をしてもこれを阻止することはできません。
2. 無期雇用契約への転換の条件
では、どのような場合に有期雇用契約が無期雇用契約に転換されるのでしょうか?
無期雇用契約への転換の条件は、以下の通りです。
①同一の使用者との間で締結された2以上の有期雇用契約の契約期間を通算した期間が5年を超えること
②労働者が、使用者に対し、現に締結している有期雇用契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了日の翌日から労務が提供される期間の定めのない雇用契約の締結の申込みをすること
以下それぞれの条件につき説明します。
2.1. 有期雇用契約の通算方法
無期雇用契約への転換制度は2013年4月1日から施行されている関係で、上記①の有期雇用契約の通算期間は、2013年4月1日以降に開始した契約から算定されます。
なお、有期雇用契約は同一の使用者の下のものであれば良いため、例えば5年間の間に部署移動や転勤などがあっても、使用者に変更さえなければ通算されます。
2.2. 労働者からの転換申し込み
たとえ条件①を満たす場合でも、無期雇用契約への転換が自働的に生じるわけではありません。条件②が示すように、労働者が使用者に対して無期雇用契約への転換を請求しない限り、転換の効力は生じません。
この労働者が使用者に対して有期雇用契約を無期雇用契約に転換させるよう申し込む権利を無期転換申込権といいます。
3. 転換後の労働条件
では、有期雇用契約が無期雇用契約に転換された場合、労働条件は変動するでしょうか?
まず、雇用期間については、期間の定めがなくなる、すなわち、無期となります。
もっとも、雇用期間以外の賃金等その他の労働条件は、原則として従前の有期雇用契約下のものと同一とされます。
4. 無期転換申込権が行使される前に「雇止め」をすることができるか?
有期雇用契約の無期雇用契約への転換を望まない使用者が、無期転換を回避する目的で、有期雇用契約の通算契約期間が5年を超えないうちに契約の更新を拒絶し、雇用契約を終了させてしまうことが理論上考えられます。
使用者が有期雇用契約の更新を拒絶し、期間満了により契約が終了することを「雇止め」といいますが、このような雇止めは有効でしょうか?
結論からいいますと、無期転換申込権の発生を妨げる目的での雇止めは無効となる可能性が高いです。
また、雇止めの有効性に関して労働者が不服に感じ、後に紛争となり、ケースによっては使用者が裁判や審判に巻き込まれることも予想されます。
さらに、裁判または審判の結果、雇止めが無効と判断された場合、雇止めをした日から裁判または審判が確定した日までの間の賃金を支払わなければならなくなります。
このように、無期転換申込権の発生を妨げる目的での雇止めをすることは、使用者側にとって非常に大きなリスクとなるため、避けるべきでしょう。
なお、雇止めについての詳細は別コラム「雇止めについて弁護士が解説」にて解説をさせていただいておりますので、よろしければそちらも併せてご覧ください。
5. 無期転換申込権の不行使合意は有効か?
使用者としては労働者との間で有期雇用契約を締結する際に、将来無期転換申込権を行使しない旨の合意をすることで、この権利の行使を回避しようとすることも理論上考えられます。
では、このような合意は有効でしょうか?
結論としては、このような合意は原則として無効となります。
なぜなら、法が有期雇用契約労働者に対して無期転換申込権を認めた意味がなくなってしまうためです。
したがって、雇用契約書等に無期転換申込権を不行使とする合意を盛り込むことは避けるべきでしょう。
6. 更新年数・更新回数を制限する合意は有効か?
では、有期雇用契約を締結する際に、予め更新年数や更新回数の上限を合意しておくことは有効でしょうか?
例えば、雇用契約書に「更新回数は●回を限度とし、●回目の更新はない」との条項や、「本契約は期間満了をもって終了し、契約更新は一切行わないものとする」との条項を設けるような場合が想定されますが、この場合、直ちにこれらの合意が無効となるとはいえません。
ただし、雇止めの有効性についての問題は残りますので、事前に専門家に相談されることをお勧めします。
7. さいごに
有期雇用契約の無期雇用契約への転換制度は、労働者を不安定な地位に長く置くことを防止するという観点から新設された制度ですので、これに反するような対応をとることはかなり慎重にならざるを得ませんので、疑問に思う点や心配が点がございましたら、事前に専門家にご相談ください。