労基署対応の留意点について弁護士が解説
労務問題では行政機関として労働基準監督署(以下「労基署」といいます。)が頻繁に登場します。労務問題に関して企業が受ける不利益に労基署からの指導・是正勧告を挙げるケースも多々あります。
しかし、そもそも労基署とはどのような組織なのでしょうか。企業様とお話をしていると、その点について曖昧に理解されていることが珍しくありません。本稿では、労基署について解説します。
1. 労基署とはどのようなものか
1-1. 労基署の組織
労基署は厚生労働省管轄下の出先機関です。労働者保護のために労働基準法(以下「労基法」といいます。)や労働安全衛生法といった法律が定められていますが、規制があってもこれが守られていなければ意味がありません。そこで、労基法等が定める各種規制の実効性を確保するための行政機関として労基署が設置されました。
1-2. 労働基準監督官とその権限
労基署に勤務し、実際に監督業務を実施する国家公務員のことを労働基準監督官といいます。労基法等では、一定の違反に対する罰則規定を定めていることから、企業が労基法等を遵守しているか監督する労働基準監督官には一定の範囲で司法警察員と同等の権限が付与されています。
まず、労基法違反に関して調査するために
① 会社の事業場等に立ち入る(臨検)権限
② 帳簿・書類等の提出を求める権限
③ 労働者、使用者に対する尋問をする権限
を有するとされています。
加えて、司法警察員と同様に逮捕や送検をする権限も有しています。例えば、割増賃金の不払いは賃金不払罪という犯罪に当たり、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。金額が多額で、不払いの期間も長期にわたる場合、逮捕や送検をされるおそれがありますのでご注意ください。
なお、労基法では、労働基準監督官の臨検を拒んだり尋問に対して虚偽の陳述をしたりする等してその監督業務を妨げた場合、30万円以下の罰金が科せられると定められており、労働基準監督官には強大な監督権限が与えられているといえます。
2. 労働基準監督官による臨検監督
2-1.臨検監督の流れ
労働基準書の調査(臨検監督)は概ね以下の流れで行われます。
① 臨検監督の予告
もっとも、違法状態を糊塗されるおそれがあるため原則として予告はされません。
② 調査の実施
調査方法・調査内容について決まりはありませんが、概ね以下のような調査がされます。
ア 事業場の概況、勤務状況、就労現場の安全衛生対策実施状況等の把握・確認
イ 就業規則、労働者名簿、賃金台帳、労使協定書、タイムカード等の労働関係帳簿を確認
ウ 事業主、管理監督者、人事担当者、従業員から聞き取り
③ 是正勧告書、指導票・使用停止命令書の交付
調査の結果、法令違反があったときは是正勧告書が交付されます。法令違反はないが改善点があるときは指導票が交付されます。また、施設に不備や不具合があるために、労働者に緊迫した危険があって緊急を要するときは使用停止命令書が交付されます。
④ 是正報告書の提出
是正勧告書等の交付を受けたときは、改善期日までに指摘された事項を改善し、その内容を報告する必要があります。
⑤ 再監督の実施
場合によって、是正状況について確認することがあります。
2-2. 臨検監督の際のチェックポイントの一例
調査内容は事案によりますので、以下では労働時間を例に注意すべきポイントを挙げますので参考にしてください。
・時間外・休日労働、みなし労働時間制等の労使協定の締結・届出の有無
・いわゆる36協定を超える時間外労働が行われていないか
・割増賃金が法定通りに支払われているか
3. 労基署対応の留意点
平成27年度に実施された厚生労働省の調査によると、臨検監督の結果、約7割の事業所で法令違反が認められたとされています。働き方改革の一環で長時間労働の是正が社会的課題とされている関係で、労基署は長時間労働に対して厳しい姿勢を打ち出しています。
ある日突然労基署の調査が入り、法令違反の指導を受けた。労基署の指導を受けたとの風評が広まると採用活動にも影響しかねません。このような事態を防ぐためにも、弁護士と相談をしながら法令違反のない状態を作り上げることが重要です。事業所の状態をチェックするためにも一度弁護士へご相談することをお勧めいたします。