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パワーハラスメントについて弁護士が解説

1. 企業のパワーハラスメント対策の必要性

昨今、パワーハラスメントの相談件数は増加傾向にあるとされており、防止等の対策の必要性が叫ばれていますが、なぜ今そのような対策が必要とされるのでしょうか?

1.1.パワーハラスメントが企業にもたらす弊害と対策構築の効果

まず、パワーハラスメントが起こった場合、企業に対し以下のような弊害が生じるとされています。

  • 職場風土が悪化する
  • 職場全体の士気の低下などによる生産性の低下が生じる
  • パワーハラスメント問題を解決するまでに時間、労力、コストなどを要する
  • 企業イメージが低下する
  • 優秀な人材が流出する など

これに対して、パワーハラスメント予防、解決策を講じた企業においては、以下のような効果が得られたとされています。

  • 管理職の意識の変化による職場環境の変化
  • 職場のコミュニケーションが活性化する・風通しが良くなる
  • 管理職が適切なマネジメントができるようになる
  • 会社への信頼感が高まる
  • 従業員の仕事への意欲が高まる
  • 休職者・離職者の減少
  • メンタルヘルス不調者の減少
  • 職場の生産性が高まる など

したがって、従業員がその職務遂行能力を十分に発揮できるような職場づくりをし企業全体の業績を向上させるためや優秀な人材を定着させるためなど、企業価値を維持向上させるためには、パワーハラスメント防止、解決のための対策を講じることが重要となります。

1.2.パワーハラスメント防止措置を講じる義務

また、法律により、2020年6月1日から企業に対し職場におけるパワーハラスメント防止措置の構築が義務付けられます(ただし、中小企業については2022年4月1日から義務化され、それまでの期間は努力義務となります)

したがって、近い将来、法的にもパワーハラスメント防止措置を構築する義務が生じるため、今から当該措置を構築していくことの必要性が高まっています。

2. パワーハラスメントとは?

では、パワーハラスメントとは具体的にはどのような言動を指すのでしょうか?

2.1. パワーハラスメントの定義

パワーハラスメントという言葉の定義は、法律や裁判例において明確になされているわけではありません。 もっとも、2018年に発表された厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の報告書においては、職場におけるパワーハラスメントの概念として、以下の3つの要素のいずれも満たすものをいうと整理されています。

【職場におけるパワーハラスメントの三要素】

  1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
  3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

以下、各要素について解説します。

2.2. 優越的な関係に基づいて行われること

まず、①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われることという要素については、当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われることを意味するとされています。この要素のポイントは優位性の内容について限定をしていない点にあります。すなわち、優位性が認められる関係性であれば、例えば、職務上の地位が上位の者が下位の者に行う場合に限らず、職務上の地位が下位の者が上位の者に行う場合もこの要素に該当し得ることになります。
下位から上位の者に対して行われる場合に優位性が認められる例としては、職務上の地位が下位の者が業務上必要な知識や経験を有しており、下位の者の協力がなければ業務遂行が困難となる場合や、下位の者による集団的行為がなされこれに対して上位の者が抵抗や拒絶をすることができない場合などが挙げられています。

2.2.2. 業務の適正な範囲を超えて行われること

次に、②業務の適正な範囲を超えて行われることという要素ですが、これは、社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものである場合を意味するとされています。
この要素により、業務上の必要な指示や注意・指導に対して不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲内にとどまる場合には、、パワーハラスメントにはあたらないということになります。
業務の適切な範囲を超えたとされる例としては、業務上明らかに必要性のない行為であったり、業務遂行のための手段として不適当な行為である場合などが挙げられています。

2.2.3. 身体的若しくは精神的苦痛を与えること又は就業環境を害すること

最後に、③身体的若しくは精神的苦痛を与えること、又は就業環境を害することという要素は、当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味するとされています。
この要素に該当する例としては、暴力により傷害を負わせる、人格を否定するような言動、繰り返し大声で怒鳴る、長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により就業意欲を低下させることなどが挙げられています。
また、この要素の該当性判断にあたっては、平均的な労働者の感じ方を基準とするとされています。
なお、実際に裁判例では、一般に、人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には、心身の健康を損なう危険があると考えられるから、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であり、その判断は、原則として、これを受ける者について平均的な心理的体制を有する者を基準として客観的に判断されるべきとしたものがあります。

3. パワーハラスメントが発生した場合の責任について

では、パワーハラスメントに該当する行為が起きた場合、誰が、どのような法的責任に問われるのでしょうか?

3.1. 加害者の責任

まず、パワーハラスメントを行った当事者は、被害者に対して不法行為を行ったとして、損害賠償責任を負うことになります。この場合の損害の中身としては、治療費、休業損害、退職による逸失利益、自殺に至った場合の逸失利益、慰謝料及び弁護士費用等が考えられます。

また、極めて悪質な行為態様によっては、刑事上の責任を負うこともありえます。

3.2. 使用者の責任

次に、自らが雇用する労働者がパワーハラスメントを行った場合、使用者も使用者責任として被害者に対して損害賠償責任を負うケースもあります。 また、使用者は、労働契約上の付随義務として安全配慮義務を負っていますし、法律上も、労働契約に伴い、労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っています。したがって、使用者が職場内でのパワーハラスメントの存在を認識しながら適切な対応などを講じない場合には、使用者は、被害者に対して、 これらの義務違反を理由に損害賠償責任を負うこともありえます。

4. まとめ

パワーハラスメントが一度起きてしまうと企業によってその影響は計り知れないものがあります。したがって、企業においては、如何にしてパワーハラスメントが発生することを事前に予防するかということが重要といえます。さらに、残念ながらパワーハラスメントが起きてしまった場合に適切に対処できるよう備えておく必要があります。加えて、法律上も、パワーハラスメント防止、解決策の構築が義務付けられることとなりますので、是非、当事務所の企業法務に特化した弁護士についてご相談いただければと思います。

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