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定年制度の設計ー定年制を維持すべきか廃止すべきかー

定年制は、長期雇用慣行を支える重要な制度として、これまで大多数の企業に採用されており、ある意味で「あって当然」のものとして認識されてきたことでしょう。しかし、定年制そのものは法律上採用することが義務付けられているものではなく、近年では定年制を廃止する企業も多く出てきています。厚生労働省の2019年の調査結果によると、定年制を廃止した企業は4,297社に上るとされています。特に注目すべきはその内訳であり、定年制を廃止した企業の約98パーセントは中小企業(従業員が31~300人規模の企業)であるとされています。また、定年制を廃止した企業数は2018年の調査時から2019年の調査時までの間に184社増加しているとの結果もしめされています。

このように定年制を維持するも廃止するもその判断に委ねられる状況において、企業としてはどのような選択をすべきでしょうか?

この問題を検討する際の一資料としてご活用いただけるよう、本コラムでは、定年制についての基本的な情報や定年制を廃止した場合に想定される法的な問題点等について解説をしていきたいと思います。

なお、本コラムでは取り上げませんが、定年後の再雇用制度については、「高年齢者継続雇用制度について弁護士が解説」というコラムで別途説明をさせていただいておりますので、そちらをご参考にしていただければと思います。

    目次

  1. 1.定年制とはー定年退職制と定年解雇制ー
  2. 1.1 定年退職制
  3. 1.2 定年解雇制
  4. 1.3 定年退職制と定年解雇制の違い
  5. 1.4 就業規則の定め方についての注意点
  6. 2.定年制の制度設計ー高齢者雇用確保のための3つのオプションー
  7. 3.定年制を維持すべきか廃止すべきか
  8. 3.1. 定年制を廃止するメリット
  9. 3.2. 定年制を廃止するデメリット
  10. 3.3. 定年制廃止に伴い検討すべき法的問題点
  11. 3.3.1. 退職問題
  12. 3.3.2. 労働条件の変更の可否
  13. 4.さいごに

定年制とはー定年退職制と定年解雇制ー

1.1 定年退職制

一般に定年制と呼ばれている制度も法的には2つの制度に分類できます。

一つ目は、みなさんがイメージしているいわゆる定年制としての定年による退職制度が挙げられます。定年退職制度は、労働者が定年年齢に達したことにより、自働的に労働契約を終了させる制度をいいます。

1.2 定年解雇制

もう一つの制度が定年解雇制です。定年解雇制は、労働者が一定の年齢に達したことを理由として解雇を行う制度をいいます。

1.3 定年退職制と定年解雇制の違いの重要性

定年退職制と定年解雇制は似ているように思われますが、法的には両者の違いはとても重要です。すなわち、定年退職制に該当すると判断された場合には、労働者が予め設定された定年に達したことにより、当該労働者との労働契約が自働的に終了するとされるのに対して、定年解雇制に該当すると判断された場合には、労働者が設定された定年に達したとしても自働的に労働契約が終了することはなく、別途解雇の手続きを踏む必要が生じます。

1.4 就業規則の定め方についての注意点

定年退職制度を設定するつもりが定年解雇制度を定めたものと評価されてしまった、そんな落とし穴に落ちないためにはどのような点に気を付けるべきでしょうか?例えば、就業規則の解雇事由の中に「一定の年齢に達したとき」といった記載がある場合には、定年解雇制を採用していると判断される可能性があり、その場合、労働契約を終了させるために解雇の手続きをふむ必要があることとなりますので、ご注意ください。

定年制の制度設計ー高齢者雇用確保のための3つのオプションー

少子高齢化に伴い、高齢者雇用確保の観点から、定年年齢を65歳未満とする定年制を定めている企業は以下のいずれかの措置をとらなければならないとされています。

  1. 定年年齢を65歳まで引き上げる
  2. 65歳までの継続雇用制度を導入する
  3. 定年制の廃止

前提として、定年制を採用する場合、定年年齢は原則60歳以上とする必要があります(そのため、例えば、仮に55歳と定年年齢とする定年制を設定したとしても、当該定年年齢の定めは法令に反するものとして無効となります。)が、そのような企業であっても、定年制を維持しつつ、①定年年齢を65歳に引き上げるか、もしくは、②65歳までの継続雇用制度、すなわち、現に雇用している高年齢者が希望するときは当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度を導入するか、又は、③定年制自体を廃止する必要があります。

定年制を維持すべきか廃止すべきか

このようなオプションがある中で企業としてはどのような判断をすべきか迷われると思います。とりわけ、定年制を維持するのか廃止するのかという点が大きな分かれ道となるところです。そこで、以下、定年制を廃止の一般的なメリット、デメリット、及び、定年制廃止に伴い検討すべき法的な問題点について解説します。

3.1. 定年制を廃止するメリット

定年制を廃止するメリットとしては、一般的に以下のような事由があるとされます。

① 優秀な人材の継続雇用が可能に

定年年齢に達したことを理由として自働的に労働者との労働契約が終了するということがなくなりますので、優秀な人材を長期に渡って確保することができるようになります。

② 技術やノウハウの継承が可能に

習得に時間を要する特殊な技術や専門知識を用いて事業を行う企業の場合、技術者や専門家が定年により一律に退職してしまうとするより、これらの労働者が有する技術や専門知識を後輩の労働者に対して時間をかけ伝えていくことが可能になります。

③ 労働者のモチベーションが向上する

定年年齢が近づくにつれて業務意欲が停滞するということも考えられますが、定年制を廃止することにより、労働者が年齢にとらわれずに可能な限り長く最前線で活躍をするということを見据えて行動をすることが可能になり、業務遂行に対するモチベーションが向上するというメリットが生じます。

3.2. 定年制を廃止するデメリット

他方で、定年制を廃止するデメリットとしては、一般的に以下のような事由があるとされています。

① 世代交代、新陳代謝が進まない(歪な社員構成)

上記メリットで記載した理由の①の裏返しではありますが、定年制を廃止することにより、定年年齢に達することにより一律労働契約を終了させることができなくなるため、全社員に占める高齢労働者の割合が増加したり、うまく人員の新陳代謝が進まなくなる恐れがあります。

② 人件費の増加

一般に勤続年数や年齢が高い労働者ほど高額の賃金を受領しているかと思いますが、定年制を廃止することにより、これ高齢の労働者の数が増え、人件費が増額してしまう恐れがあります。

③ 通勤、移動の際の事故等の怪我、病気のリスクの増大

また、業務の内容によっては高齢労働者の方が勤務中に怪我や事故に巻き込まれる可能性が上がる恐れがある等のデメリットも想定されます。

上記はあくまでも一般的な議論ではあり、実際には必ずしも全ての企業に当てはまるものではなく個別に検討が必要なことは言うまでもありませんが、定年制を維持するか廃止するかという問題を検討するにあたって、入口の問題として、ひとまず上記のようなメリット、デメリットがあることを踏まえた上で、いずれが自社にとってより良い選択となりうるかを検討してみることも考えられるでしょう。

3.3. 定年制廃止に伴い検討すべき法的問題点

次に、上記の一般的なメリット、デメリット等を検討の上、定年制を廃止する方が自社にとって良い、あるいは、定年制廃止を検討をしてみる価値があると判断された場合に、抑えておくべき定年制廃止に関連する法的な問題点について解説します。もっとも、これまで多くの企業が定年制を採用してしてきており、定年制廃止に伴い発生した法的問題点の集積は必ずしも十分でないところがありますので、ここでは現時点で想定される基本的な問題点について指摘をするにとどめたいと思います。

3.3.1.退職問題

定年制を廃止した場合、期間の定めのない社員を、会社が一方的に退職させる方法としては、退職勧奨のような事実上の行為を除くと、解雇のみとなります。しかし、解雇となる場合解雇の手続きを踏まねばなりませんし、より深刻なのは、当該労働者を解雇することを正当ならしめる理由が存するかどうかという問題です。この点、高齢となった労働者を解雇するという場面において、過去の裁判例等に照らして明白な解雇の正当理由が認められるようなケースはそう多くないと考えられます。また、多くは、老齢に伴う業務遂行能力の低下、不足といったことを理由として解雇を検討することが想定されますが、老齢に伴う能力不足を理由とした解雇に正当理由が認められるかどうかは相当程度慎重に検討が必要となるデリケートな問題です。

3.3.2. 労働条件の変更の可否

定年制を廃止した場合に生じることが想定される他の法的問題点としては、労働条件の変更可否の問題が挙げられます。すなわち、定年制は企業の人事制度設計をする際の重要なファクターとなりますが、定年制を廃止するのに伴って、これまで定年制があることを前提として設計してきた労働条件を変更する必要が出てくることがあります。典型的な例としては、賃金体系の変更が考えられますが、賃金に関する条件を会社が一方的に労働者にとって不利益となる方向に変更することは、労働条件の不利益変更となり、無効とされる可能性があります。また、他の例としては、就業規則の変更が考えられます。この点については、裁判例上、合理性が認められる限り、就業規則の変更も許容されると判断したものもありますが、どのような場合に合理性があるといえるのか、こちらも簡単ではない問題が想定されます。

最後に

定年制は、長らく多くの企業に採用されてきており、同制度が採用され始めた当初は定年年齢を55歳とすることが一般的とされていましたが、少子高齢化問題等制度設計の前提となる社会的基盤が大きく変動するに伴い、現在では定年制を設定する場合には定年年齢を65歳とする必要があると法令で定められるようになり、また、定年制自体を廃止することを選択する企業も多く出てきているというところでは、まさに過渡期にある制度といえるかと思います。そのため、企業としては定年制を維持するのか廃止するのか迷うところが多いかと思いますが、定年制は企業の人事設計にとって非常に重要な制度である上、定年制をいざ廃止しようとする場合には上述したような法的な問題が生じる恐れが懸念されます。

従いまして、定年制を変更や廃止することご検討際には、事前に相談いただくとともに、実際の運用についても、適宜弁護士にご相談いただくことが有用です。一度、ご相談いただければと思います。

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