不動産賃貸借契約で失敗しないポイント
不動産賃貸借契約は最も身近な契約類型ですが、注意すべき点も多々あります。以下では不動産賃貸借契約で思わぬ不利益を被ることを防ぐためのポイントを解説します。 なお、不動産賃貸借契約はひな形を流用している例が散見されますが、安易にひな形を利用するとご自身にとって不利な条項がそのままになっているおそれがあります。実際に契約を締結するうえでは弁護士へのご相談をお勧めいたします。
1.土地賃貸借契約の更新
居住用・事業用問わず、賃貸物件を長年利用すると、借主に継続利用したいというニーズが生じます。そこで、不動産賃貸借契約の更新が重要な関心事になります。
更新には「合意更新」と「法的更新」があります。
1-1.土地賃貸借
1)合意更新
当事者の合意による更新です。借地借家法が適用される場合、更新後の契約期間は初回が20年、2回目が10年となります。
なお、借地法は改正されて旧法となっていますが、適用される契約は存在するのでご注意ください。借地法は堅固建物と非堅固建物を区別しており、更新後の契約期間は、前者が30年、後者が20年です。
2)法定更新
一定の条件のもと法律に従ってされる更新です。まず、賃貸した土地上に建物が存在することが前提となります。そのうえで、借主が貸主に対して更新を請求し、貸主が遅滞なく異議を述べないことが条件となります。
また、借主が更新を請求せずに土地を継続していた場合も、貸主が遅滞なく異議を述べなければ契約が更新されます。
なお、貸主の異議には正当事由が要求されています。正当事由の有無は、①貸主と借主それぞれの土地利用の必要性、②土地賃貸借に関する従前の経過、③土地の利用状況、④立退料等の事情を考慮して判断されます。立退料の支払が必須とされているわけではないこと、また、立退料を支払ったからといって正当事由が認められるわけではないことにご注意ください。このように、借主の地位は法律によって強力に保護されているといえます。
1-2.建物賃貸借
1)合意更新
建物賃貸借における更新後の契約期間は最長で20年とされています。なお、1年未満の期間を定めた場合、それは期間を定めなかったものとみなされます。
2)法定更新
当事者が更新拒絶の通知をしなかった場合、又は、契約条件を変更しなければ更新を拒絶する通知をしなかった場合は、従前と同じ内容で更新したとみなされます。なお、この通知は契約が満了する6ヵ月から1年前にすることが必要です。
また、貸主が更新拒絶の通知をしても、借主が建物を継続しようしていることに遅滞なく異議を述べなかった場合も契約が更新されます。加えて、この異議には正当事由が要求されます。
なお、法定更新後は期間が定めのない賃貸借となります。
2.解約申し入れとは
期間の定めのない建物賃貸借は、当事者が解約を申し入れることで、申し入れの日から6カ月後に終了します。
ただし、貸主からの解約申し入れには制限があり、正当事由が要求されます。
3.契約期間の途中の賃料の値上げ・値下げ
契約の途中で賃料を増減することができないのが原則です。もっとも、当事者が合意をすることで契約内容を変更することは可能です。
また、社会情勢の変動によって契約で定めた賃料が妥当性を欠くことがあります。そのような場合のために、裁判上の手続によって賃料の変更を請求することができることが認められています。この場合、まずは調停を申し立て、調停によって解決できなかったときにはじめて訴訟を提起ができるという制度が取られています。
4.敷金の返還
近年では、敷金礼金を不要とする物件も増えてきていますが、まだまだ敷金を必要とする物件が一般的です。敷金は賃料等の賃貸借契約上の債務を担保する機能を有します。
敷金は契約終了時に賃借人が負担すべき金額を差し引いて清算されます。もっとも、賃借人が負担すべき金額の妥当性を巡って紛争になることは珍しくありません。特に、賃借人の原状回復義務の範囲が問題になります。