未払残業代請求事件
相談内容
A社で正社員として勤務していた従業員Bが、自主退職後、在職中に支給されなかった残業代を、代理人弁護士を通じてA社に対して請求した。
A社は、Bの残業の事実については認めるものの、固定残業代として毎月支給していた額があること、交通費は実費分につき支払うべきところBに対しては協議のうえで実費として発生していなくとも固定で支給していたこと等を理由として、Bによる残業代請求の減額を主張した
争点
A社の固定残業代制は有効か。
A社による交通費の固定支払いは残業代請求の減額要素となるか。
解決内容
A社がBに対して当初請求額の45%を支払う内容で交渉成立。
弁護士の所感
本件は典型的な残業代請求に関する案件でした。典型的というのは、残業代請求をされた経営者側の多くが「固定残業代を支払っている」と反論されるものの、その固定残業代制が法的に有効なものになっていないことが非常に多いためです。
固定残業代を支払っている経営者としては、あくまで残業代として支払っている以上、その部分は既払いであると考えるのが普通です。しかしながら、それが有効な固定残業代制となっていない場合には、裁判所を通じた司法判断のもとでは、残業代に対する支払いとは認められません。
固定残業代制が有効となるためには、
①労働者との間で固定残業代制を採用することについての合意があること
②固定残業代に相当する時間及び支給額が明定されていること
③固定残業代に相当する時間を超えて労務の提供があった場合にはその超過部分を別途残業代として支給すること
以上が必要となります。
本件は、上記②と③の要件を欠いていたことから、固定残業代制としては無効と言わざるを得ないものでした。
また、本件においてA社は、「交通費は本来現に発生した実費分につき支払うべきところ、Bに対しては協議のうえで特別に固定で支給していた」旨主張して、残業代の減額を主張しました。もっとも、この反論もあくまで交通費として支給していたに過ぎず、残業代の支払いとは認められません。
本件は、あくまで任意の交渉案件でしたので、A社による主張も事実上反論したところ、当初請求額の半額以下での和解となりました。もっとも、これが裁判所を通じた手続であった場合には、同条件での和解は非常に困難であると考えられます。
固定残業代を支払われている場合には、果たしてそれが有効なものになっているかしっかりチェックすることが経営者側にとっては必須といえます。