労使間において経営方針や業務に向き合う考え方に大きな隔たりがあることを理由に退職勧奨を行った事例
相談内容
介護・福祉業を営む相談者Xは、急遽の人員補充の必要性から従業員Yを採用した。ところが、入社してから1ヶ月の間に、Yが先輩の意見に耳を傾けず、また周囲との協調性がない故に周囲の従業員のモチベーションを下げているという現実に遭遇することとなった。Xは何度かにわたりYにその旨を伝え、改善を求めたものの、Yと他の社員との関係は悪化の一途をたどった。そこで、XはYに対し、退職勧奨をすることとした。
争点
解雇理由の有無及び解雇の有効性
解決内容
Yが退職勧奨を拒否したことから、Xは即日解雇を通知したものの、その数日後に再度の協議を行い、使用者側の退職勧奨に基づく離職を退職理由とする退職の合意が成立した。
弁護士の所感
本件は一時は退職勧奨が奏功しなかったことから、即日解雇の通知をしたものの、その後の協議で合意退職となるという珍しい事案でした。
経営方針や考え方の違いというのは、労使関係の根幹をなすものであり、問題としても極めて根深いと言わざるを得ません。しかしながら、それが解雇理由たり得るかといえば、それは全く別問題です。むしろ、見解や方針の相違を理由とする解雇はまず認められないと考えられます。考え方の相違というのはあくまで内面の問題であり、それを懲戒の対象とはできないこと、また、人となりや考え方は採用段階で精査したうえで労働契約を締結すべきであるといえるためです。
しかしながら、本件はただ単に見解の相違というにとどまらず、それが他の従業員に悪影響を及ぼし、更にはYのXに対する態度もおよそXの指揮命令に服するものとは評価できない状況にまで達していたことから、それらを理由とした解雇をすることとなりました。
本件は、最終的には再協議を経て合意退職で終結することができましたが、解雇をするうえで考えさせられることの多い事案でした。