商標権をめぐる問題
相談内容
宝石の小売業を営むA社は、本件で商標登録を有する商標権者である。
ところが、B社は当該商標権を有する真の権利者であって、A社の有する商標登録はB社の許諾に基づいてなされたものに過ぎないこと、A社とB社との業務提携が終了した場合には無償でA社がB社に商標権の移転登録手続をする旨の約定があった旨等を主張し、A社を相手取って商標権移転登録手続等を求める訴訟を提起した。
争点
B社が主張する内容の商標権使用許諾契約その他の合意は存在したか。
解決内容
B社の請求を棄却する全部勝訴判決。
弁護士の所感
本件は、相手方であるB社が、A社との間で商標権の使用許諾契約等を締結したこと等を主張して提起された訴訟でした。A社からその訴訟対応の委任を受けた当事務所としては、B社主張の種々の合意が存在すると認められるに足る証拠が存在するのかという観点に焦点を絞り、応訴いたしました。
我が国の法律においては、契約書等が存在せずとも口頭で成立する契約類型がほとんどを占めます。本件で問題となった商標権の使用許諾契約も同様です。
もっとも、民事訴訟の世界では、その立証がなければ事実として認定されません。従って、契約書を作成することが強く求められるわけです。
しかしながら、B社からは最後まで訴訟において契約書が証拠提出されることはありませんでした。
本件の商標権の帰属をめぐる問題のように、社運がかかるといっても過言ではないような重要な契約であれば「契約書を交わさないはずがない」という経験則が強く働きます。「あるはずのものがない」という状況証拠がA社に有利に働いた事件であったといえます。
証拠の存在が裁判の世界では極めて重要な要素となりますが、そこにいう「証拠」とは必ずしも契約書という紙媒体(有体物)等のみならず、「あるはずのものがないという状況証拠」も含まれます。
重要な契約であればしっかりと取り交わすべきであるということを改めて考えさせられる事件でありました。