給与形態として年俸制を導入していた会社に勤めていた従業員が、退職後に未払い残業代を請求してきた事例
相談内容
正社員としてYはX社に勤めていたが、自主退職した後に、弁護士を代理人に立てて、就労中に支払われなかった残業代があるとして、当該残業代を請求してきたことから、X社は当事務所にその対応を依頼するに至った。
補足すると、X社としては、年俸制を採用していたこともあり、Yとは1年単位で支給される基本給・残業代・賞与等を固定給として設定して支払うという内容で雇用契約を締結していたため、Yが仮に所定労働時間を超える超過勤務をしていたとしても、別途残業手当を支給することはなかった。
そして、本件に関してX社は、Yの勤務態度や能力面に照らし合わせてみると、不必要な残業であったという認識を有していた。加えて、Yは不定期ながら継続して遅刻していたにもかかわらず、業務日報を毎回同じ始業時刻で提出しており、この始業時刻を基に残業代を請求していると考えていた。
争点
①年俸制の正当性
②残業代を請求する根拠として業務日報は認められるのか
解決内容
交渉した結果、Yに対してX社が当初の請求額から減額した額を解決金として支払う内容で和解成立。
弁護士の所感
まず初めに、年俸制とはどのような制度なのかについて簡単にご説明いたします。
年俸制とは、年間をとおしての業績評価やスキルによって翌年度の賃金額を定めようとする制度のことです。労働時間の量に注目したものではありません。
そのため、基本的には、年俸制を導入している会社が、年俸の中に残業代を含む形で従業員と雇用契約を結んだとしても、それと労働基準法によって定められている時間外労働に対する割増賃金についての規定との間には関連性はなく、時間外労働の割増賃金支払義務を回避することは不可能です。また、「固定残業代制」を採択している場合も同様のことが言えます。
なお、今回の事案は、相手方である従業員自らが作成した業務日報に基づき、残業代を請求してきたわけですが、当該業務日報の記載内容の一部に、実際の勤務実態と一致しない部分がありましたので、会社側としてその点を指摘・反論したうえで、減額の交渉を行いました。
また、この従業員に関しては、その能力不足が原因で他の従業員よりも多くの労働時間を要するということもあり、その結果として残業代が嵩んでいしまっているという実情がありました。
しかし、たとえ労働時間の長期化の原因が、従業員の能力不足に起因するものだとしても、それが残業代減額の根拠にはなりません。
現行法の下では、能力の有無は個人の問題ではなく、使用者側による業務量調整の問題であると捉えられていますので、その点を理解しておくことが重要です。