養育費

養育費とは

養育費とは、一般的に、父母の離婚後に子どもが生活するために必要な費用のことで、衣食住の費用のほか、教育費や医療費、小遣いなどの適度な娯楽費も含まれます。

離婚後、父母はその経済力に応じて養育費を分担しますが、通常、子どもを引き取って育てる側の親(監護親)に引き取らない側の親(非監護親)が養育費を支払います。

離婚をしても親には子どもの扶養義務があります。養育費は離婚の原因や親権者が父母どちらかにかかわらず支払われるべきものです。

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養育費を支払う期間

養育費の支払期間は、第一次的には父母の話合いで決めますが、家庭裁判所の判決や審判の場合には、20歳までが対象となることが一般的です。よくご相談者(養育費を支払う非監護親のほう)から「民法改正で成人年齢が18歳までになったので、養育費も18歳まで払えばいいのではないか。」と相談を受けますが、民法が改正されたからといって、法改正の前後で子どもが社会に出る時期の実態が変わったわけではありませんし、家庭裁判所の実務では変わらず養育費の終期は原則20歳までとされています。

もっとも、いまは大学進学率も高いですし、監護親も子を大学まで行かせたいと思うことは多いので、協議や調停で養育費の定めをする場合には、大学卒業までを終期とすることも実務上はかなり多いです。

養育費の金額

養育費の金額に法的な規制があるわけではないので、父母の収入や財産、生活水準などに応じて話合いで決めます。話合いで決める場合には、その取決め方にルールはありません。

もっとも、裁判所や弁護士が介入した場合には、いわゆる「算定表」ないし「算定式」というツールを利用して養育費額を決めることが多いです。

これは、子の数と年齢別に、自分(請求側)の収入を横軸、相手(請求される側)の収入を縦軸とした算定表をもとに、養育費を算出するものです。東京家庭裁判所のホームページに算定表の実物とその使い方が掲載されています。

ここまでは、一般の方でも、弁護士に相談するまでもなく認識されていることが多いようで、弁護士のところに相談に来られる方は、算定表の存在自体は大体皆さんご存知です。

ただし、この算定表は、子の人数、年齢、双方の収入を当てはめるだけで適切な養育費の水準をはじき出してくれるとても便利なものですが、実はその使い方は非常に奥が深いものです。たとえば、この算定表では、養育費については公立学校相当の教育費(~14歳の場合には年額約16万円、15歳~の場合は年額約26万円)しか反映されていませんので、子にそれ以上の教育費がかかっている場合には超過分を請求できる場合があります(「請求できる」と断言していないのは、父母の学歴と比較して過剰な教育ではないかとか、非監護親がその教育を容認しているかなどのファクターが関わってくるためです。)。

養育費の支払方法

養育費は、話合いで決めた期限まで毎月一定額を金融機関に振り込む形で支払うのが一般的です。

もちろん、父母で合意すれば、将来分の養育費をまとめて払ってしまうということも合意は可能です。もっとも、仮に監護親の金銭の使い方に計画性がなく、早いうちに一括で払われた養育費を使い込んでしまったケースをイメージしてください。そのような場合、非監護親としては、「離婚時に一括で養育費を払った以上は、その後の使い込みのことまで責任は持てない、追加の養育費など払わない」、と当然言いたくなるでしょう。なお、ここでは、一括で払い込んだ養育費が、離婚時の合意書等で明確に「(一括払の)養育費」として特定されているとします。しかし、このような場合でも、監護親の使い込みあるいは無計画により、子の生活すら危ぶまれるような場合には、子ども自身から、「扶養料」として生活費の請求がされてこれが認められることがあります。一括で払ってしまうことには、監護親にとってはメリットが多い(毎月の縫う金がきちんとなされているかを都度確認する義務がありませんし、始めに一括で払い込まれた養育費を運用して、結果的に、分割でもらうケースと比べて大きな金額にすることができるかもしれません。)一方、非監護親にとってはリスクがそれなりにあるのです。たとえ非監護親の方のほうの預貯金に余裕があるとしても、一括払の合意をする際は、(非監護親の方は)注意しましょう。

養育費が支払われない場合

離婚時に子が幼少の場合には養育費の支払は長期間に及ぶので、不払いトラブルも少なくありません。養育費について話合いをしたら、必ず、その内容を文書で残すべきです。そして、文書には、支払期間(終期)、金額、支払方法を明記すべきです。

また、文書化する際は、可能な限り公正証書にすることが望ましいです。公正証書にしておけば、あとあと支払いが滞った場合に裁判を起こさなくても、相手方の給料や財産を差し押さえること(強制執行)ができます。

また、家庭裁判所の手続きを経て離婚する調停離婚・審判離婚・裁判離婚の場合には、公正証書による取決めがなくとも、強制執行により非監護親の預貯金や給料を差し押さえることができます(養育費については、将来分も予め強制執行することができるなど、民事執行法上の特則により制度が手厚くなっています。相手方が勤務先を退職して逃げた場合でも、次の転職先をある程度は追うこともできます。怖いですね。養育費はきちんと払いましょう。)。

養育費の金額・終期の変更

離婚後に事情の変化があれば、双方の話合いで養育費の増額・減額をすることができます。話合いがつかない場合には、家庭裁判所に養育費変更(増額or減額)の調停を申し立てます(もちろん話合いを省いて調停をしても構いません。)。調停での話合いにより結論が出なければ「審判」という手続きに自動移行して裁判官による判断がなされますので、相手方が応じなければダメだという類のものではありませんので、相手方が応じないだろうというだけで手続をあきらめるべきではなく、手続き自体は積極的にしていくべきでしょう。

もっとも、審判も裁判の一種ですので、法律あるいは裁判例の基準を満たしていなければ、(相手方が応じない場合には)なかなか養育費の変更は認められません。

養育費の増額が認められる正当な理由としては

  • ・子どもの進学や授業料の値上げによって養育費が増加した
  • ・子どもの病気や怪我で多額の医療費がかかった
  • ・監護者の病気やけが、リストラや会社の倒産で収入が低下した

などがあります。

養育費の減額が認められる正当な理由としては、

  • ・リストラや会社の倒産、事業の失敗、病気、怪我などで、支払う側の収入が低下した
  • ・監護者が就職等で経済的に安定した

などがあります。

また、増額・減額を基礎づける正当理由があることに加え、その理由が「元々の養育費額設定時に予想できた事情かどうか」が重視されます。上記の例でいうと、病気が当初から分かっていた場合や、会社の倒産が当初から予想されておりそれが双方の共通認識だった場合には、審判で養育費額の変更は認められづらい方向に働くと思われます。

上記のとおり、養育費額の変更には「正当理由」が必要となるので、「当初合意で取り決めた養育費が算定表より高いまたは低い場合」には、その理由だけで、算定表に基づいた養育費に取り決めなおしたいとの主張は、通りにくいです。ただし、過去の養育費が最初から虚偽や事実の隠蔽により不当に決まり、その養育費を維持することが著しく当事者の公平に反するような場合や、当初の養育費の合意が時期を限定した合意である(と諸々の事情から解釈できる)場合は、算定表による養育費への見直しが認められることもあります。

また若干特殊なケースとしては(「特殊」と言っても実際にはそれなりの頻度で生じます)、監護親が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組をするケースがあります。この場合は、再婚相手(養父)が第一次的な扶養義務者になり、実父の扶養義務が後退する結果、養父に子どもの扶養能力がないなどの事情(心情的にはそのような経済状況で子を養子にするなと言いたくなってしまうかもしれませんが)がない限りは、子の養育費は免除されることになります。ただ、この場合でも養父と子の養子縁組により自動的に養育費支払義務が消滅するわけではなく、監護親の方と合意をするか、養育費減額(免除)調停を起こす必要があります。


養育費の終期についても同様です。養育費設定時は子が大学に行くか分からないので終期を20歳と設定していたが、その後、子が大学に進学したため終期を22歳ないしは大学卒業時までというかたちで延ばすことも、調停や審判にて決めることになります。子が将来的に大学に行くかは予想しづらいところなので、このパターンは、一般的に、当初の設定時に予想出来なかったとも言いやすいと思われます。

養育費問題について弁護士に依頼するメリット

1.はじめに

現在の実務において養育費は一般的に標準算定方式(標準算定方式に基づき簡易早見表を作成したものがいわゆる「算定表」です。)に基づいて大まかな相場が定められております。その為、多くの件はこちらの標準算定方式に基づいて定められていく傾向があります。そうだとすると、養育費問題について弁護士に依頼しても、結局は標準算定方式どおりに決まってしまう以上、弁護士に依頼する必要は無いのでしょうか。

必ずしもそうではありません。あくまで標準算定方式は早期に養育費の金額を確定する為に統計資料等に基づき計算式が定められ、機械的に金額を算出しています。個々の事情によって修正される場合があることまで否定されているわけではなく、きちんとそのような事情を主張立証できれば、標準算定方式と異なる結果となることは決して珍しいことではありません。

このように、養育費問題に熟知した弁護士に依頼し、きちんとご自身の個別の事情を踏まえた主張立証を行うことで、標準算定方式と異なる結果を得られる場合がございます。

2.よくある弁護士に依頼するメリットが大きいケース例

⑴ 自営業者の場合

自営業者の場合も原則として確定申告書記載の「課税される所得金額」を前提に、標準算定方式に基づいて養育費が算定されます。実際、算定表の収入欄には給与所得者の収入と併記される形で自営所得者の収入が記載されています。

もっとも、給与所得者の収入は源泉徴収票等に記載の総収入を単純に参照すれば良いのに対し、自営所得者の場合は必ずしもそうではありません。

「雑損控除」、「寡婦、寡夫控除」、「勤労学生、障碍者控除」、「配偶者控除」、「配偶者特別控除」、「扶養控除」、「基礎控除」、「青色申告特別控除」といった現実に支給されていないものについては「課税される所得金額」に加算されるべきものです。また、小規模企業共済当化基金控除や寄付金控除も、性質上、養育費の支出に優先すべきものではない為、加算されます。

その他、自営業者の場合、節税等の観点から必要経費が必要以上に計上されている場合が事実上多々あります。そのような経費が本当にその事業を維持する為に必要な経費なのか、単に生活費として支出したものまで経費として計上していないかについて精査すべき場合もございます。

以上のとおり、自営業者の場合、養育費を算定するにあたって前提となる収入の考え方に大きな幅が生じかねない為、事実関係をきちんと精査し、法律上の主張立証をきちんとしているかによって大きく差が出る場合があります。

したがって、当事者が自営業者の場合、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。

⑵ お子様の教育費が問題となる場合

標準算定方式によって定める養育費は、公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費のみが考慮されています。その為、お子様が私立中学校・私立高等学校に進学した場合、塾や習い事を利用している場合、大学等の教育期間に進学した場合の養育費や進学費用については別途検討される必要があります。

もっとも、当然に義務者が全ての教育費について支払い義務を負うわけではあるなせん。従前より義務者が承諾していたかどうかという事情の有無や、義務者の収入・学歴・地位等の一切の事情が考慮されることになります。また、具体的にどの部分の費用が対象となり、どのような方法で加算されるかについては細かい計算を要する場合もあります。

このように、お子様の教育費が問題となる場合、これまでの教育に関する夫婦のやり取りや行動をあらためて整理し、法律上の主張立証をきちんとしているかによって大きく差がでる場合があります。

したがって、お子様の教育費が問題となる場合、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。

⑶ 夫婦間の子以外の被扶養者がいる場合

認知した子がいる場合や、前妻との子を監護養育している場合等、夫婦間の子以外に被扶養者がいる場合も標準算定方式による計算が複雑化しやすい傾向にあります。

このような場合、義務者が当該被扶養者と実際に監護養育しているのか、単に養育費を支払っているだけなのかによっても検討方法が変わる可能性があります。

したがって、夫婦間の子以外の被扶養者がいる場合、適切な金額を算出するにあたっては弁護士に依頼することで金額が大きく変わることもありますので、一度ご相談ください。

3.まとめ

養育費問題で頻繁に問題となり得る事例を中心にご紹介させていただきましたが、ここで記載した事項以外の場合でも標準算定方式を機械的に当てはめるだけでは適切な養育費の金額が定まらないケースは多々あります。弁護士に依頼することで、標準算定方式の幅に捕らわれない結果となる場合もございますので、養育費に悩まれている方は一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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