医師の夫との離婚相談

1.はじめに

当事務所でご相談をお受けする方の中には、夫が医師をされているという方のご相談も少なくありません。もちろん、医師だからといって特別に何か異なる取扱いがされるというわけではありませんが、一般的に所得が高い職業ということもあり、養育費や財産分与といった点で、他の一般的な事例と比べて内容が複雑化しやすいという傾向があります。

2.夫が医師の夫婦のよくある離婚原因

明確に統計等が存在するわけではありませんが、やはり広い意味での性格の不一致が非常に多いです。

開業医か勤務医か、専門分野が何かによってもちろん状況は千差万別ですが、やはり医師という職業は一般的に忙しく、夫婦の時間、家族の時間を取りにくくなりがちという傾向にあります。その結果、コミュニケーションが不足し、次第に衝突が増えていった結果として離婚を意識し始めるというケースは少なくありません。

また、やはり所得が高い傾向にあり、自由に使える金銭が多い反面、金銭感覚の不一致やいわゆる不倫等に発展した結果として離婚に至るというケースも散見されます。

いずれにせよ、夫が医師の場合、離婚に際して取り決めるべき条件(特に養育費、財産分与、慰謝料等)が通常のケースとは異なる視点が必要になる場合があります。あまり確認せずに進めた結果として、本来得られるはずの条件を大幅に手放してしまっていたということも有り得てしまう為、事前に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

3.医師の夫と婚姻費用について

離婚に先立ち、別居を契機に婚姻費用の問題が発生する場合があります。

一般的には、標準算定方式(いわゆる算定表)を基準に婚姻費用の適正額を定めていくことになります。

もっとも、算定表記載の義務者の年収は給与所得者の場合が2000万円、自営業者の場合が1567万円と定められており、仮に当該金額より義務者が高収入だった場合に相手から支払ってもらえる婚姻費用の金額が頭打ちになるのかという問題が生じます。この点、婚姻費用はあくまで夫婦間の生活費的な側面が大きく、一般的に収入が上がれば上がる程、その分、生活費的な側面は小さくなり、資産形成に回される傾向があることから、このような問題が生じます。

収入の上限を頭打ちにした上で計算する考え方もありますが、基礎収入割合を修正した上で婚姻費用の金額を算定することが多い傾向にあります。もっとも、何をどの程度修正するかについては、収入額や個々の夫婦の具体的な事情によって個別に判断されることになります。その為、どのような事情に着目し、主張立証していくかによって金額が大きく変わりかねません。

その他、別居前あるいは別居後相当期間において既に決まった金額の交付があったような場合は、既に婚姻費用の金額について明示又は黙示の合意があったことを理由に従前の支払い額を維持するよう主張できる場合もあります。

このように、夫が医師の場合の婚姻費用の金額は、標準算定方式だけでは当然に決まってこないケースも多々あるため、離婚問題に詳しい弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。

4.医師の夫と親権について

「夫が代々医師の家系で、夫はもちろん、夫の両親も子供を後継者にする為に親権を主張してきそう。」というご相談をいただく場合があります。しかし、夫が医師だから、あるいは代々医師の家系だからという理由で夫が親権を取得するにあたって有利になることはありません。

また、「医師の夫の方が収入が高く、自分は収入も無いため、親権を取得するにあたって不利にならないか。」というご相談も非常に多いです。しかし、双方の経済状況は原則として養育費を通じて同程度に調整される為、御自身に収入が無いことをもって親権を取得するにあたって不利になることはありません。

親権の適否は、お子様の福祉の観点から様々な視点から検討されることになりますが、一番重視される事情としては、従前の主たる監護者がどちらだったかという点になります。殆どのケースで、医師の夫は職業の性質上、お子様の主たる監護者として対応していたケースは無く、必然的に妻側が主たる監護者として従事していたことが多い傾向にあります。その為、双方ともに医師の場合、あるいは妻側が医師でないとしても、医師である夫と同程度に勤務しており、監護の程度が夫婦同程度と言えるような状況でない限り、医師である夫が親権を取得できるケースは決して多くは無いといえます。

したがって、医師の夫が親権を取得してきたとしても、直ちにご不安になられる必要はございません。

5.医師の夫と養育費・学費について

婚姻費用と異なり、養育費については、算定表記載の収入上限で頭打ちになるという考え方が一般的です。その為、仮に夫の収入が算定表記載の収入上限を大きく上回っていたとしても、婚姻費用の場合のように、夫の基礎収入割合を修正しつつも養育費の金額が上がっていくことはありません。

もっとも、養育費についてはそれぞれのお子様の状況、従前の教育方針、両親の学歴等によって個別具体的に判断されることとなります。いわゆる算定表はあくまで公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費のみが考慮されています。夫が医師の場合、私立中学・私立高等学校へ進学予定、あるいは既に進学している場合も少なくありません。場合によっては小学校から私立の学校に進学していることも有り得るでしょう。

もちろん、夫が事前に明確に反対していた場合ならさておき、同居中より私立中学・私立高等学校への進学が夫婦間はもちろん、お子様との間でも前提となっていたにもかかわらず、離婚に伴ってそれらの学費を一切夫が負担する必要が無くなってしまうのはあまりに不合理です。そのような場合、標準算定方式によって月額養育費の金額を算定しつつもの、個別具体的な事情に応じて月額の支払い額を増額させることや、学費等について別途負担を命じることも有り得ます。

6.医師の夫と財産分与について

⑴ 対象財産について

ア はじめに

医師の夫と離婚する場合、最大の争点となりがちなのが財産分与です。一般的に医師の収入が他の職種と比べて高いことから、対象となる財産が多岐にわたることはもちろん、婚姻前の財産、両親からの贈与といった特有財産も大きく問題となり得ます。特に婚姻期間が長ければ長いほど、多くの財産が対象となり得る為、内容を整理するだけでも複雑化、長期化しがちです。

そして、どの財産が財産分与の対象となるのか、その財産の金額を評価するのかという点によって、獲得できる金額の幅が大きく変わりかねません。

したがって、医師の夫との離婚において、特に注意して対応しなければいけないのが財産分与の部分であり、特にどの財産を分与の対象とするかという点です。

イ 特有財産

夫が医師の場合、婚姻のタイミングによって、既に婚姻前に一定の財産を築いているケースがあります。その為、夫側が、婚姻前の財産がいわゆる特有財産にあたるから財産分与の対象からは外すべきだと主張してくることがあります。もちろん、財産分与があくまで夫婦が協力して築き上げた財産を分与するものである以上、婚姻前の財産を財産分与の対象としないこと自体はその通りです。もっとも、婚姻後、当該婚姻前の財産の管理の態様等によっては、当然に財産分与の対象から外すとはならないケースも多々あります。特に、婚姻前の財産を夫婦の共有財産と別に管理していたわけではなく、婚前一体と管理しつつ、随時夫婦の生活費に組み入れていたと評価されるような場合、特有財産性が否定される事例も多々あります。

したがって、医師の夫が、「この預貯金は婚姻前に築いたものだから財産分与の対象にはならないはずだ。」と主張してきたとしても、直ちに諦めるのではなく、それまでの管理状況等も確認した上で一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

ウ 対象財産

一般的に医師の収入が他の職種と比べて高いことから、対象となる財産が多岐にわたる傾向があります。単に預貯金の金額が多いのみならず、自宅以外に複数の不動産が存在したり、多種多様な生命保険が存在したり、各種株式が存在したりします。

また、夫が開業医で、医院等を医療法人化している場合、夫個人と医療法人はあくまで別人格の為、当然に医療法人の保有財産は財産分与の対象とはなりません。しかし、医療法人の出資持分について財産分与の対象とすることは十分にあり得ます。出資持分の具体的な評価基準については明確な基準があるわけではありませんが、実務上は純資産価額を参考に金額を定める傾向にあります(大阪高判平成26年3月13日参照)。

⑵ 寄与割合について

医師である夫側より、婚姻前の夫自身の努力によって医師になることができ、その結果として高額の収入を得られている以上、財産分与の寄与割合について傾斜すべきという主張がされることが多々あります。

しかし、現在の財産分与実務において、いわゆる分与割合は2分の1ずつが原則(いわゆる2分の1ルール)となっており、これが修正されるに際しては相応の事情が必要となります。この点、「医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、離婚後にこれを活用して多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して」寄与割合を6対4に修正した事例(前掲大高判平成26年3月13日参照)も存在しますが、実務上2分の1ルールが修正されるケースは極めて稀です。

したがって、仮に医師である夫が財産分与の寄与割合について傾斜するよう主張してきたとしても、堂々と2分の1を主張していきましょう。

7.医師の夫と慰謝料について

医師の夫に対して請求する慰謝料の内容としては、主に不貞行為に対する慰謝料や暴力・モラハラ等に対する慰謝料等が想定されます。この点、慰謝料は当該行為と発生した結果を前提に算出される傾向にある為、「相手が慰謝で高収入だから」といった理由で慰謝料の金額が当然に高額になることはありません。特に訴訟手続の中で判決となればそのような判断になることはまずありません。

他方で、いわゆる交渉段階であれば色々な要素が複合的に作用することになります。特に、医師の夫が不倫をしていた場合等、相手が有責配偶者と評価される事情がある場合、相当長期間にわたって夫側からの離婚請求が認められる可能性が低く、その間、収入に応じた多額の婚姻費用を支払い続ける必要があり得ます。

以上の状況を踏まえると、相手側より早期解決の希望からいわゆる「相場」より相当高額な金額をいわば「解決金」として提示してくることは少なくありません。

このように、医師の夫に対して慰謝料を請求できる事情がある場合、交渉の進め方によっては「相場」より相当な高額を獲得できるケースもあります。

8.最後に

以上のとおり、夫が医師の場合、争点が多岐にわたる傾向にあり、また、各争点ごとに進め方次第で大きく結論や金額に幅が生じ得る可能性があります。医師の夫との離婚を進めるにあたっては、医師の夫を相手とする離婚問題を多数経験している弁護士にご相談することをお勧めいたします。

当事務所は、離婚問題に特化した弁護士が多数所属しており、医師の夫を相手とする離婚問題の実績も多数ございます。医師の夫との離婚をお考えになられましたらお気軽に弁護士法人グレイスにご相談ください。

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