年金分割
目次
年金分割とは
熟年離婚の場合、特に問題になるのが年金の問題です。
たとえば、夫がサラリーマンで妻がずっと専業主婦だった場合、老後の年金は夫と妻それぞれの名義の国民年金(老齢基礎年金)と、夫名義の厚生年金(老齢厚生年金)を受け取ることになっています。離婚すると、妻が老後にもらえる年金は国民年金だけになり(独身中に厚生年金に加入していた場合は、その分の厚生年金を受け取ることができます)、夫と妻の受け取る金額には大きな差が出てしまいます。
しかし、夫が外で精一杯働けるのは妻のサポートがあってこそです。また、家事や育児に追われて男性並に働きたくても働けないという女性もいらっしゃいます。
家事労働は、そのままでは年金に反映されないため、「結婚している期間に支払った保険料は夫婦が共同で納めたものとみなして、将来の年金額を計算しよう」という制度が「年金分割」です。
年金分割制度には、「合意分割」と、「3号分割」の二つがあります。
年金分割制度と、対象となる年金
離婚をしたときの年金分割制度は厚生年金や共済年金を対象にした制度です。夫婦ともに国民年金のみに加入している場合には対象になりません。この分割制度には、「合意分割制度」と、「3号分割制度」の2種類があります。
また、年金分割は厚生年金や共済年金の標準報酬部分に限られ、基礎年金部分や厚生年金基金のような上乗せ部分は対象になりません。いずれも、請求は離婚後2年を過ぎるとできなくなります。
参考資料
1階 部分 |
(老齢)基礎年金 | 受け取る金額は年金の種類にかかわらず、一定額となる | 国民年金で受け取れるのはこの部分のみ |
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2階 部分 |
報酬比例部分 | 年金保険料が給与額をもとに決まるため、給与が高いほど保険料が高く、年金額も高くなる | これを受け取れるのは、厚生年金や共済年金の加入者のみ |
3階 部分 |
企業年金 (厚生年金の場合) 職域相当部分 (共済年金の場合) |
会社ごとにある上増し年金。 同じ金額の年金を受け取れる確定給付年金と、同じ金額の保険料を払うが、受け取れる年金額は年金の運用実績により左右される確定拠出年金がある |
これを受け取れるのは、厚生年金や共済年金の加入者のみ |
第1~3号被保険者
- 第1号被保険者:日本国内にお住まいの20歳以上60歳未満の自営業者、農業・漁業者、学生および無職の方とその配偶者の方(厚生年金保険や共済組合等に加入しておらず、第3号被保険者でない方)
- 第2号被保険者: 厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方(ただし、65歳以上の老齢基礎年金などを受ける権利を有している方は除きます)
- 第3号被保険者:第2号被保険者(※)に扶養されている配偶者の方で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の方
※ 第3号被保険者は、自身は年金保険料を支払うことなく、1階部分の老齢基礎年金を受け取れます。
合意分割
当事者間で年金分割の割合を決めるのが、「合意分割」です。
合意分割は、平成19年4月1日以降に離婚した夫婦が、結婚していた期間に応じて、その期間の厚生年金・共済年金の標準報酬を最大2分の1まで分割できる制度です。分割の割合は夫婦の話し合いで決め、決まらない場合は、家庭裁判所の調停や審判で決めます。
割合についての合意ができたら年金事務所に年金分割の請求をする必要があります。
分割の話し合いをするにあたっては、分割の対象になる婚姻期間や厚生年金の標準報酬額について正確に知る必要があります。そのための情報は、日本年金機構が「年金分割のための情報通知書」を提供することになっています。情報の請求は当事者が一緒に、または一方からすることができます。
3号分割
請求により2分割されるのが「3号分割」です。
3号分割は、専業主婦の方が対象です。平成20年4月から離婚するまでの間、第3号被保険者であった期間の夫の厚生年金の標準報酬額の2分の1を、話し合いや調停などによらずに受け取ることができます。
たとえば、夫がサラリーマンで妻が専業主婦の夫婦が平成30年5月に離婚した場合、平成20年からの10年間分に相当する厚生年金の標準報酬額の半分が妻名義になります。それ以外(平成20年3月以前や妻が厚生年金に加入していた期間など)の夫名義の厚生年金や、共働きの場合の分割については、合意分割の制度に従って決めます。
なお、3号分割は、離婚をすると自動的に年金が分割されるわけではないため、離婚後、第3号被保険者であった本人が年金事務所に分割の請求をする必要があります。
年金分割をしないとどうなるか
婚姻中に相手方が厚生・共済年金に加入しており、その扶養に入っていた場合には、離婚後に当然に相手方名義の厚生・共済年金を受け取ることはできません。また、老後に受け取れるのは国民年金のみ、又は自身で厚生・共済年金に加入したとしても加入期間が短く年金も低額であることも想定され、老後の生活費が不足するおそれもあります。そのため、年金分割をしない場合には、将来受け取れる年金の受給額が減少することになり、老後の生活費が不足するということにもなりかねません。このようなデメリットの大きさや老後の金銭的な不安は精神的な負荷等を考慮すれば、老後の生活を少しでも安心して過ごせるよう年金分割を行っておくことは必須といえます。
なお、次に記載してあるとおり、年金分割も請求できる期間に制限がありますので注意が必要です。
離婚が既に成立している場合
年金分割の請求は離婚が成立した後でも行うことができます。しかし、年金分割請求ができる期間にも制限があることに注意が必要です。この期間制限は、原則として、離婚をした日の翌日から起算して2年です。ただし、例外として、離婚してから2年を経過するまでに審判又は調停を申し立て、審判が確定又は調停が成立した場合には、その確定又は成立日の翌日から6ヶ月経過するまで年金分割請求を行うことができます。
以上のとおり、年金分割が請求できる期間は原則として離婚が成立した日の翌日から2年です。期間制限に例外があるとしても、この例外の適用を受けるためには調停又は審判の申立てが必要であるため、その準備期間も考慮しなければなりません。その他必要書類の取得などに必要な期間もあります。そのため、2年という期間があるとしても、年金分割に向けた行動を早期に取る必要があります。もっとも、年金分割は老後の生活に直接影響する制度ですが誰かがその存在を当然に知らせてくるものではありません。そのため、できる限り、離婚を検討する際に弁護士に相談し、離婚時に請求すべきものを把握しておくことも重要といえます。
まとめ
年金分割は、熟年離婚に際して必ず決定しておいたほうが良い事項です。3号分割であれば、相手方の合意なくしてできますので、ご依頼となった際は、その手続きのお手伝いをさせていただきます。また、交渉によって企業年金部分の分割も請求していくことで、さらに多くの年金を受給できる可能性がございます。
熟年離婚する際には、年金分割が大きな関心ごとになるかと思います。手続きも煩雑になりますので、ぜひ一度弁護士にご相談ください。