アスペルガー症候群のパートナーとの離婚
アスペルガー症候群とは
アスペルガー症候群は、一般的には、相手の気持ちを想像したり、空気を読んだり、一般的な暗黙の社会的ルールを理解することが苦手であることを内容とする発達障害、という意味に使われています。
この点について、国際的診断基準であるDSMの現在のものでは、自閉症スペクトラム障害というカテゴリーに変わり、複数の下位診断カテゴリーが吸収合併された結果、アスペルガー障害という診断名はなくなっています。そして、この自閉スペクトラム障害は、神経発達障害の一つであり、正常な社会的関係を構築することができない等の病気であり、他者とコミュニケーションを取ったり、関係を持つことが苦手、行動・関心や動作のパターンが限定的、多くの場合、決まった行為に従って毎日を過ごす、などとされています。 そして、その診断は、観察結果、親からの報告、自閉症用の標準化されたスクリーニング検査の結果に基づいて下されます。 さらに、自閉スペクトラム障害は、一定の幅をもった疾患群と考えられていて、その病像は種類や重症度の点で非常に多彩です。また、自閉スペクトラム障害患者の多くに知的能力障害がみられるそうです。
自閉スペクトラム障害は約59人に1人の割合で発生し、女性よりも男性で4倍多くみられるそうです。また、自閉スペクトラム障害が医師や一般の方の間でよく知られるようになってきたことで、自閉スペクトラム障害と特定される人数が増えてきているとも言われています。 また、自分の感情を表現したり、自らの言動が相手にどのような印象を与えるかを想像することが苦手な人も多く、その場の雰囲気に合わない行動を取ってしまうこともあります。
もっとも、いまだに一般的にはアスペルガー症候群という用語は多く利用されております。本記事は医学的な解説が主眼ではありませんので、アスペルガー症候群という用語をそのまま使用して解説します。
アスペルガー症候群の配偶者との夫婦トラブル
アスペルガー症候群の方は、臨機応変な対応が苦手な傾向にあります。予想外の事態に直面すると、不安になったり、パニックを起こしてしまうこともあります。また、物事の一部に拘ってしまい、全体像を把握することが不得意な人もいます。 一方、興味があることには何時間でも集中して取り組み、単純作業や反復作業も厭わずにやり抜くため、特定の分野で他人にはできないような業績を上げる人もいるそうです。
夫とのコミュニケーションがストレスとなり、苦しんでいる、悩んでいる女性が増えています。 アスペルガー症候群の人は、相手がどう思うかを想像することが苦手なので、 他人を傷つけてしまうことが多く、それらは身近にいる家族に一番向かってしまうのです。
アスペルガー症候群の配偶者との離婚の進め方
離婚に必要な事由(法定離婚原因)を定めた民法770条1項には、
① 「不貞行為」 ② 「悪意の遺棄」 ③ 「3年以上の生死不明」 ④ 「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」 ⑤ 「その他婚姻を継続し難い重大な事由」
の5点のいずれかがなければいけません。
アスペルガー症候群が④の「強度の精神病」に該当するのではと考えられる方がいるかもしれませんが、裁判例上、④の「強度の精神病」は、「婚姻共同をなすに堪えない程度の精神障害、換言すれば、民法第752条にいう夫婦の協力義務が充分に果たされない程度の精神障害」と定義されており(長崎地判昭和42年9月5日等)、実際にはその判断基準は厳しく、アスペルガー症候群という理由で④「強度の精神病」に当たると判断した裁判例は筆者が調べた範囲では存在しません。
そのため、最終的には、⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の存在を立証する必要が出てきます。⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は、(ア)夫婦としての信頼、絆が完全に切れたこと(主観的側面)、(イ)回復の見込みがないこと(客観的側面)の2つが認められる夫婦の状態、と言われています。そして、実務上は、長期間の別居、暴行、虐待、重大な侮辱、性格の不一致などが主張されることが多いです。
アスペルガー症候群の相手との離婚で弁護士がサポートできること
そもそも正式に医師の診断が出ているケースは少ないでしょうし、仮に正式に医師の診断が出ていたとしても、それのみを原因に裁判所が裁判離婚を認める可能性は非常に低いので、離婚の進め方としては、いわゆる性格の不一致により離婚を求めていく場合と大きくは変わりません。 別居期間が長くなればそれ自体で上記⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。
別居期間については、一説では、どちらかが不貞をしたというような事案を除けば、3~4年を基本原則とし、夫婦不和の類型的な事情に応じて、プラスマイナス1年程度が目安になる、とされています。
そのため、まずは別居した上で別居期間を重ねつつ、協議、調停で離婚の合意を得るよう試み、離婚の合意を得ることができなければある程度別居期間が長くなったところで離婚訴訟を提起し、婚姻時の言動、別居期間を総合的に考慮してもらい離婚判決を得ることを目指す、という方法が考えられます。
当然、離婚訴訟まで見据えた方法ですので、離婚訴訟の流れや見通しについても熟知した弁護士のサポートのもと進めた方がよいと思われます。最終的に相手方の合意が得られなくても離婚の意思は固いという方は、事前に弁護士までご相談いただくことをお勧めします。